報酬付与について語られる際、しばしば「報酬付与は創造性を阻害する」という懸念が述べられる。それが常に成り立つのであれば、研究開発者へ報酬を与えようという近年の動きは、多大な資源を投入するにも関わらず、研究開発者にとって必要な創造性を阻害することになってしまう。この問題に取り組むため、本年度は2つのアプローチを試みた。 一つは、心理学の文献を詳細にレビューして、常に「報酬付与は創造性を阻害する」ということが成り立つのか、を調べた。認知的評価理論や自己知覚理論に基づく研究では、創造性には内発的動機付けが必要であり、報酬付与、特に業績に連動する報酬の付与は内発的動機づけを阻害し、その結果創造性が阻害されるということが述べられ、それを支持する実験結果がほとんどであった。しかし、行動変容研究に基づく研究にサーベイを拡大することにより、タスクの性質がアルゴリズミックである、或いはもとはヒューリスティックなタスクであっても業績尺度の設定を工夫することによって、外発的動機づけにより業績連動報酬が創造性を促進しうるという可能性が示唆された。また、外発的動機付けでも創造性が促進しうることがわかったことにより、内発的動機づけと外発的動機づけの両面から創造性を促進するようなシステムの構築を考えていくのが望ましいことがわかった。 もう一つは、近年の日本企業が取っている研究開発者への報酬システムを文献・簡単なインタビューにより調査した。その結果、特許に対して多額を与えるということのみでは動機付け上好ましくないのではないか、という予測が立てられた。
|