研究概要 |
15年度は前年度から構築作業を行ってきた新規公開企業の財務データベースを完成させ,これを利用した実証分析を行った.実証研究の成果は「株主資本価値評価方法の公開価格算定への適用に関するノート」として発表した. 論文では株式新規公開時の公開価格算定の基礎として,複数の株主資本価値評価モデルの適用可能性を検討し,推定値と実際の公開価格との比較を行った.多くのファイナンスの教科書で紹介されている配当割引モデルやキャッシュフロー割引モデルは実務上,必要な配当やキャッシュフローの推定が難しく,推定誤差を小さくできる可能性から残余利益モデルの優位性を指摘した.その他,評価マニュアルで取り上げられている純資産法,類似企業比準法についても検討した.また,2001年にJASDAQ市場で公開した97社を例にとり,純資産法,RIM,国税方式の3つの評価モデルによる推定値の算出と公開価格の比較を行った.公開価格との評価誤差を求めたところ,3つの評価モデルとも公開価格より過小評価となった.次に回帰分析では,公開価格を従属変数として評価モデルの有用性,その他の要因を分析した.純資産法による推定値を用いた回帰では,統計的に有意な結果は得られず,純資産法と公開価格の関係は否定された.RIMによる推定値を用いた回帰では,3つのモデルの中で最も高い説明力を得た.単回帰式では約35%,評価モデルの推定値に利益予想成長率を加えた重回帰ではさらに上昇し,企業のクロスセクションに対する説明力は約43%に達した.また,比準方式では決定係数は低いものの,推定値は有用な変数であることが確認された.
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