研究概要 |
商法規定に基づき個別財務諸表ベースで算定された配当可能利益の限度内であれば、当該企業は、連結業績ベースの配当政策を採用することに何ら問題はない。しかしながら、わが国企業の少なくとも約2/3は、個別財務諸表ベースで配当を支払っている。他方、投資者は、連結と単独のいずれの業績ベースと関連づけて配当を評価しているのか。この検討課題に取り組むために、本研究では、連結業績と単独業績が相反するサンプルに注目しつつ、1984年〜2002年までの延べ6,888個〜15,012個の企業と年度から構成される3種類のサンプルに対して、Ohlson(2001)、並びに、Easton and Harris(1991)に依拠したいくつかの回帰モデルを推定した。 本研究における主要な発見事項はつぎの3点である。(1)当期配当を所与として、連結赤字・単独黒字グループの配当係数はプラス有意に、逆に、単独赤字・連結黒字グループの配当係数はマイナス非有意に推定された。(2)当期増減配シグナルを所与として、たとえば単独増益・連結減益グループの増配シグナルは、両側10%水準ではあるが、マイナス有意に評価された。これに対して、たとえば連結増益・単独減益グループの増配シグナルに関する係数の推定値は非有意であった。(3)次期に関する経営者予想データを用いた場合も、上記(2)と首尾一貫する結果が得られた。 上記3つの実証結果は、いずれも、資本市場が、親会社単独業績ではなく連結業績の方と関連づけて配当を評価していることを証拠づけている点で首尾一貫している。本研究の発見事項の中でも、とりわけ増配に関する結果は、もし株価上昇効果を念頭に増配を行う場合、連結業績に基づいた配当政策を採用すべきであることを示唆している。わが国では、いまだ単独ベースの配当政策を採用している企業が大半であるが、本研究の実証結果は、それらの企業が連結ベースの配当政策へと転換するための証拠資料として位置づけることができる。
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