(1)研究の範囲 本研究は、企業価値を評価する上で、時価情報がどのように役立っているのかを実証的に検証することを目的としていた。近年の取得原価主義に基づき算定された1株当たり当期純利益と1株当たり株主持分および配当によって企業価値を評価することが可能である。これに対して、時価評価差額(期首と期末の時価差額)を加えた広義の1株当期純利益、累積評価差額(時価と簿価の差額)を含んだ広義の株主持分と配当により、企業価値を評価することも可能である。そこで、本研究では、時価情報を利益計算に含める場合と含めない場合では、いずれが企業価値をよりよく評価できるかという問題に取り組むべく分析を行った。 本年度、実証分析に用いた時価情報は、土地の再評価剰余金であった。土地の再評価は、1999年から2002年度という限られた期間においてのみ、一回限りに時価評価が認められていたという特殊性がある。そこで毎期時価評価される有価証券や為替とは別個に本年度は特に土地の再評価に焦点を当てて、研究を行った。 (2)研究の内容および結果 本研究は、時価情報が利益および株主持分に反映されている場合と、そうでない場合において、それぞれ企業価値を評価し、時価情報が反映されている方が企業価値評価に役立つ利益および株主持分を導出しているといえるか否かという記述的分析を行った。分析の結果、土地の再評価差額情報を加味した会計利益情報を用いたほうが、よりよく企業価値を評価するという結果は得られなかった。そこで、次の問題が提起された。時価評価差額と企業価値評価の間に有意義な関係が見られないにも関わらず、企業はなぜ時価評価を行うのであろうか。この問題に取り組むべく、特に評価増した企業を対象にロジット回帰を行った。 分析の結果は、それぞれのパラメータ(d_1〜d_4)が統計的に有意であることが明らかにされた。この結果から、資金繰りに困っている企業ほど、土地の再評価を行うことが明らかにされた。また、時価簿価比率が高く、情報格差の大きい企業ほど、その差を縮めるべく時価評価することが明らかにされた。
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