研究概要 |
管理会計システムは、情報システムとしての機能と、影響システムとしての機能とを,二重に有するとされる。本研究では,後者の側面に焦点をあてた。管理会計を影響システムとして捉えた場合,組織構成員がそれに対して意識的・無意識的に認知する影響要因は,次のとおりである。 第一に,情報の特性であり,これは目標情報と実績情報の特性に分類しうる。前者については目標の明白さ,理解の容易さ,およびタイトネス,後者については努力結果の反映度およびフィードバックの頻度と適時性という特性が考えられる。 第二に,管理会計システムの運用方法である。目標設定にどの程度の参加を認めるか,フィードバックをどの程度建設的かつ支援的に行うか,あるいは評価方法をどのように設定するかなどによって,組織成員に心理的コンテクストが形成され,結果として組織成員の行動に影響を及ぼす。 両要因は相即不離の関係にあり,一つの要因を独立して考察しても,影響システムとしての管理会計に対する組織成員の認知様式を適切に捉えることはできない。このことは,住友電工(株)のライン・カンパニー制に対する調査(業績報告会への参加やカンパニーのリーダーに対するインタビュー調査)によっても確認した。 上記の二つの影響要因に対する組織成員の認知には,組織文化が重要な影響を及ぼしている。本研究では,最初に,多様な組織文化概念を整理した。その結果,組織文化を,ある特定の組織の構成員が共有している価値観であると捉えることが,管理会計の文脈から最も適当であると結論付けた。そのうえで,文献研究およびヒアリング調査などによって,特にミニ・プロフィットセンターにおける情報特性と運用方法との関連から,自律性支援リスク・テーキング,他者への配慮,協調主義,未来志向という組織文化の構成概念を導出し,両者の関連性を推測した仮説を構築した。
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