研究概要 |
本年度は,研究課題の前提となる実証会計理論研究についての文献サーベイを徹底的に行うことを主要な課題とし,それらを二つのサーベイ論文にまとめた.「利益数値制御の推定方法に関する一考察」(『曾計』近刊)では,実証会計理論研究において重要な課題となる利益数値制御(earnings management)の推定の側面から概観し,妥当な推定方法について考察した.そこでは,単独の方法による利益数値制御の推定には限界があり,様々な方法を組み合わせて用いることが重要であるとの結論に至った.さらに,「契約論ベースの会計研究における裁量的会計行動の分析フレームワーク」(『名古屋商科大学総合経営・経営情報論集』第47巻2号)は,経営者の裁量的会計行動についての理論的な背景を解明するものである.日米の先行研究を裁量的会計行動の動機の観点から概観し,明示的な会計ベースの契約がみられない日本企業における裁量的会計行動については,企業のガバナンス構造と関連付けて分析することが重要であることを論証している. さらに,これらの研究と並行して過年度より続けてきた,研究開発投資の調整と企業のガバナンス構造の関係について「経営者の近視眼的投資行動と企業のガバナンス構造-研究開発投資水準の決定をめぐって-」(『管理会計学』近刊)にまとめた.ここでは,目標利益を達成するために経営者が研究開発投資を削減するような裁量的会計行動が企業のガバナンス構造の影響を受けるものであること,具体的には,日本独自の株式の持ち合いやメインバンク制によってもたらされる安定的な所有構造が,経営者の近視眼的投資行動を抑制するものであることを見いだした.ただし同時に,こうした傾向は90年代前半までのものであり,近年はこうした安定的な所有構造と近視眼的投資行動の関係が崩れつつあることを示す結果も得ている.
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