近時、不良債権処理の促進が政策上の喫緊の課題と目される中、税務会計においては、これと最も直接にかかわる論点が貸倒引当金と貸倒損失の計上を通じた控除のタイミングの問題である。そこで本年度は、前年度の研究実績を基礎にしつつ、これを主要課題と位置づけ、この点に関しすでに学説・裁判例において豊富な経験を有する米国法との比較研究を中心に、取り組んできた。その成果の一部は、わが国の代表的な租税研究機関である社団法人日本租税研究協会の年次大会(大阪大会)において、「報告2:法人税における貸倒損失の控除のタイミングに関する考察」(2002年9月17日、大阪証券会館)と題して、単独の研究報告を行うことで公表し、その報告記録の出版を見た(後掲)。そこでは、貸倒れにかかわる論点を鳥瞰し、現在の実務・理論状況を踏まえた考察を行ったが、財務会計と租税法とが交錯するもっとも重要なタイミングの論点である、貸倒引当金の存在意義そのものと、法人税法上の部分貸倒れの許容性については、米国法のいっそうの調査研究を行った上で、その検討結果を、総合税制研究12号に掲載し、発表した(後掲)。また、経済再生との関係では、企業の多様化する報酬支払形態に対応し、法人側での損金算入に途を開く必要性が叫ばれているところ、本年度は、ストックオプションに係る課税問題として、所得税法上の所得分類とタイミングの問題を中心に検討を加えつつ、法人税法上の論点を掘り下げるための土台作りを行った。さらに、発生主義における控除のタイミングは、とくに近時話題の中小法人に関して問題となるとき、法人とその構成員との関係を課税上どう捉えるかという問題を抜きにして語ることはできないため、この点に関する論点整理を行ったものを、税務弘報の巻頭論文として発表している(後掲)。
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