研究概要 |
本年度の研究成果として次をあげる.(i)偶数次の実シンプレクティック群Sp(2n, R)のある非緩増大導来函手加群系に付随する実調和的Siegel-Eisenstein級数達に対して,そのFourier展開に見られるKoecher効果の成立を一般的に示した.(ii)ベクトル値版の齋藤・黒川持ち上げによる,コホモロジーに寄与する幾何的な2次Siegel留数型保型形式を明示的に構成し,そのFourier展開を詳しく計算した. 研究成果(i)はG.Shimuraによるエルミート対称領域上のベクトル値合流型超幾何関数の研究,およびLie群の作用に関して同変的な微分作用素系の研究を,導来函手加群の構造とあわせて考察することにより得られる.またこの種のSiegel-Eisenstein級数のFourier係数も,退化した項まで明示的に計算できる.研究成果(ii)は,Borcherdsによる半整数重さの楕円保型形式のtheta持ち上げの計算方法を,T.Shintaniによって一般的に構成されていたtheta級数に具体的に応用することによって得られる.従来では,Shintaniのtheta級数は正則なSiegel保型形式,あるいはIV型対称領域上の正則保型形式の構成に対して適用されていた(T.Shintani, T.Oda, S.S.Kudla等)が本研究では,非正則な実調和的なSiegel保型形式が構成された.またその結果は(i)で考察した実調和的Siegel-Eisenstein級数のFourier係数に現れる楕円Eisenstein級数のSatake parameterを楕円尖点形式のSatake parameterに置換えてできるFourier級数と一致しているようであり,これが確立されればある種の実調和的な多変数保型形式の有効な構成方法が得られることが期待される.
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