研究概要 |
昨年度までの研究に引続き,偏極代数多様体の幾何学的不変式論の意味における安定性と定スカラー曲率Kahler計量の存在とが同値になるという予想,いわゆる「偏極代数多様体に対する小林・Hitchin対応」を中心に研究した.この予想をFano多様体と呼ばれる,反標準直線束が豊富な射影的代数多様体の場合に考えると,安定性とEinstein・Kahler計量の存在の同値性の問題となる.この観点から,TianはFano多様体に対してK安定性とCM安定性という二種類の安定性を導入し,Fano多様体がEinstein・Kahler計量を持つとき,K安定にもCM安定にもなるということを示した.一方,一般の偏極代数多様体に対しては,CM安定性はすぐに一般化することができるのだが,K安定性の方は技術的困難により,素朴には一般化することができない.ところが,昨年度までの研究により,Fano多様体に対するK安定性とCM安定性は,ある仮定の下や同値であることがわかっているので,CM安定牲を用いて,偏極代数多様体のK安定性を定義してみた.一方,Donaldsonもまた,K安定性の枠組みを用いて定義している.そこで,二つのK安定性を比較してみた結果,退化するファィバーが正規の時には二つの定義は一致することが解った.また,二つのK安定性を比較してみた結果,Donaldsonの定義はCM安定性とは無関係であるが,幾何学的不変式論の枠組みである,Hilbertスキームの意味での安定性との関連が深いことがわかった.よって,「偏極代数多様体に対する小林・Hitchin対応」を考えるときには,Donaldsonの考えている枠組みの方がより優れていることもわかった.
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