「ミラー対称性とグロモフーウィッテン不変量の導来圏の幾何学による研究」のため、本年度は連接層の導来圏およびその対象のモジュライ空間による「グロモフ-ウィッテン不変量の理論」の記述を中心に研究を行ってきた。とくに弦双対性における「Dブレーン」の観点に注目し、次のような成果・知見を得た。 1 複素射影空間のような"よい"ファノ多様体に対しては、ドゥブロビン・ギーベンタールによる「量子コホモロジーの再構成定理」が成り立つ。物理学者ゴパクマー-ヴァファによりこのことがカラビ・ヤウ多様体に対しても成立する可能性があることが予想された。まだ導来圏の対象から直接に「安定な対象のモジュライ空間」を構成することはできていないが、物理的議論を用いれば巨大体積極限においては通常の連接層に対する安定性に帰着されうることがわかる。本年度の研究において、以前「BPS不変量」を数学的に定式化した際に用いた安定層のモジュライ空間が、連接層のアーベル圏を固定して考える限りもっとも自然なモジュライ空間であることを示した。また新たに「グロモフ-ウィッテン不変量」と「正則キャッソン不変量」の間にも双対性についての予想を定式化した。 2 「平坦構造」は純粋に正則な対象のみを用いて定義されている。一方で、「原始形式の周期写像」を考えるという観点、および「平坦構造」は「ホッジ構造」の一般化であるという観点から、「平坦構造」に自然な「実構造」を追加した概念が必要であると考え、その研究を行っている。これは1.に現れる複素射影空間のような"よい"ファノ多様体のグロモフーウィッテン不変量の理論とも密接に関係している重要な研究対象である。現在、次元が低い「平坦構造」の「実構造」の分類を行うことを目標に研究を行っている。
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