本研究の目標は、V-多様体の楕円種数の剛性を考察し、各種の符号数不足型不変量の間に成り立つ関係を明らかにすることであり、さらにこれら一連の現象をV-多様体の同変楕円コホモロジーを用いて理解することである。 現段階においては高次元の重み付き複素射影空間上のDirac作用素を考察し、その指数の剛性を用いることで、ある三角関数和の相互法則を証明することができた。この相互法則はDedekind和と呼ばれる算術和に対して成り立つ相互法則の類似物であるといえる。Dedekind和は、Dedekindエータ関数の変換公式に現れる項であり、F. HirzebruchやD. Zagierによって符号数作用素の同変指数に現れる符号数不足指数として理解され、Casson不変量をはじめとした量子不変量にしばしば現れる算術和である。Dedekind和は余接関数の和として定義されているのに対し、本研究で得た三角関数和は余割(正弦の逆数)関数の和であり、Dirac作用素のV-指数に現れる符号数不足指数型の不変量として定義される。D. ZagierはこのDedekind和を高次元に一般化し、それらに対してもHirzebruchのL-多項式を用いた一般化された相互法則が成り立つことを示しているが、本研究においては高次元の重み付き複素射影空間上のV-spin構造とDirac作用素を考察することにより、A^-多項式を用いた一般化された相互法則を証明した。 今後の目標は、これらの現象をV-多様体上の楕円種数の剛性という視点から統一的に理解し、符号数不足指数型不変量の間に成り立つ諸関係を組織的に研究することにある。
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