本年度は主に以下の二つの問題を考え、いくつかの結果を得た。 *正規分布の分散の推定問題 Stein(1964)によって示されたように正規分布の分散の推定問題において、自然な不偏推定量は非許容的であることが知られており、これに対して改良する推定量が長年考えられてきた。最初に提案されたpre-test型のStein推定量は経験ベイズ推定としても解釈できるなどの利点を持つが、滑らかでないという欠点を持つ。それに対して滑らかな推定量として一般化ベイズで改良する推定量及びその十分条件がBrewster and Zidek(1974)によって得られた。しかし平均ベクトルの推定問題など類似の問題よりも改良するベイズのクラスが非常に狭く、理論的に改良するベイズ推定量のクラスの拡張に興味がもたれてきた。難しい原因の一つはBrewster and Zidek(1974)の十分条件が縮小を表す関数がある定数に非常に速く収束することを課すことである。私は別の十分条件として提案されていたStrawderman(1974)の条件に注目した。これは縮小関数の速い収束を課さないため、クラスの拡張に非常に有効であることが予想されるが、実際にStrawderman(1974)の条件を満たすベイズ推定量は知られていなかった。今回私はそのような推定量を実際に提案し、その性質を詳しく調べた。 *球面対称分布の平均ベクトルの推定問題 球面対称分布の平均ベクトルの推定で通常の推定量が非許容的になるという問題で、改良する為の十分条件などにおいて、正規性の下での結果がほとんどそのまま成り立つというロバスト性が知られているが、私は正規性の下でのベイズ推定量が、球面対称分布のもとでもベイズ性とミニマクス性を保っていることを示した。
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