平成15年度は、グラフ理論および組み合わせ理論における確率的手法と擬確率的手法の研究を幅広く、かつ深く行った。擬確率的手法の基礎となるグラフ理論のRegularity補題がある。これは、巨大な任意のグラフは、ランダムグラフと似た性質(擬確率性)をもつことを示している。この補題が発見される母体となっ'た、加法的数論の等差数列のラムゼー性について研究し、そのエルゴード理論による美しい証明を深く解析し、グラフ理論と加法的数論、エルゴード理論、理論計算機科学などの複数分野に横断する擬確率性の構造を深く理解した。これにより、この手法による応用が、他にもいくつかグラフ理論においてあることを見つけた。極値グラフ理論における基礎的な問題に挑戦し、筆者が以前発表したAlon-Yusterの定理の拡張定理を、さらに一般化したかたちで証明することに成功した。密なグラフが部分グラフとして含む疎なグラフは、どのようなものであるかについて、最小次数を基準にして、かなり深い知見を得る定理を得ることに成功したと思う。 また、この手の問題の多くの場合、グラフは非負行列の一種ととらえると自然になる。グラフや非負行列にとって、固有値は重要な量であり、行列から線形変換という役割を無視した場合でさえ、その組み合わせ論的構造と固有値が深く関係していることが知られている。今回は、Mincの1988年に発表した非負行列の固有値に関する問題に、ひとつの反例を見つけることに成功した。これによって、doubly-stochastic行列と呼ばれる非負行列の基礎的なクラスは、思っていたより豊かなクラスであることが示された。
|