制御系の設計への数式処理の応用について、研究を行った. 従来の数式処理の手法は、取り扱う数式が正確なものであることを仮定しているため、浮動小数点数や数式の近似を取り扱わざるをえない実際の制御系設計への応用は困難であった.本研究では、数値を浮動小数点数で、数式をべき級数で近似することを考え、これを制御系設計に応用するための新しい数式処理のアルゴリズムや理論を構築した. 具体的には"On Computation of Approximate Eigenvalues and Eigenvectors"では、要素に記号を含む行列の固有値と固有ベクトルを求める効率的な計算法について述べている.また、「近似根の効率的計算法について」では、2変数多項式の主変数に関する根を従変数のべき級数として計算する方法(記号的ニュートン法)の効率化について述べている.これらは、従来の数式処理では正確な数式として取り扱われたものをべき級数で近似して計算するための算法であり、本研究の基礎部分をなしている. これに対し、「LQ制御に対する定数出力フィードバックゲインのホモトピー追跡」や"Computation of the Peak of Time Response in the Form of Formal Power Series"は、べき級数演算を実際の制御系設計に応用した研究例であり、本研究の応用部分をなす.前者は定数出力フィードバックゲインを求める問題に、べき級数を用いたホモトピー追跡を応用したものであり、後者は制御系の時間応答のピーク値を設計パラメータのべき級数で表す手法について述べたものである. 今後は、べき級数演算に関する研究を理論面からさらに深めつつ、制御系設計へのべき級数演算の応用例をざらに増やし、応用範囲を広げたい.
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