研究概要 |
p進上半平面において,Hilbert-Schmidt積分作用素の固有値とp進体上の特殊線型群の離散部分群における素測地線の長さを関係づける跡公式を示した.これを用いて,素測地線の長さの分布関数を,有理関数の積分とMobius関数を用いて表現し,分布関数の漸近評価を与えた(素測地線定理).分布関数の漸近評価では,誤差項をある有限マルコフ連鎖の遷移確率行列の固有値を用いて,任意の精度で評価できることを示した.井原のゼータ関数の言葉では,ゼータ関数の積分表示を与え,これから関数等式を導いた.以上の結果は,従来の有限グラフを用いた議論では特殊線型群のtorsion-freeな離散部分群のみが扱われていたのに対し,双曲的という制限はあるが,torsionをもつ離散部分群についても成立する. 上述の素測地線,および井原のゼータ関数に関する結果は,先に示した跡公式を,p進上半平面上のマルコフ過程の遷移作用素に応用して得た。ここでは,コンパクトなsupportをもうマルコフ過程については遷移密度関数の具体形を計算し,それにより,torsionについての情報が獲得される.一方,非コンパクトなsupportをもつマルコフ過程に対しては,一般に遷移密度関数の記述は困難であるが,代りにGreen関数を求め,跡公式をLaplace変換したものを適用することにより,torsionとprimitiveな元を含む式を得る.これから,コンパクトな場合より得たtorsionからの寄与を相殺させることにより,最終的に,素測地線に関する表現式を導いた.
|