非コワレフスキー型の擬微分方程式で初期値問題が未来にも過去にも一意可解であるものは分散型とよばれる。本研究では分散型擬微分方程式の初期値問題を線型偏微分方程式論や調和解析学の立場で考察する。特に初期値問題の適切性と解の微分の意味での局所平滑効果、一意接続問題と微分の意味での局所平滑効果の関連、可積分性の意味での平滑効果の解析、非線型問題への応用について考察する。得られた成果は以下の通りである: 1.ユークリッド空間上の初期値問題について、主表象が実主要型でそれから得られるハミルトン流が捕捉されないときは、低階項にある種の可積分性条件のもとに初期値問題は適切であって、解の微分の意味での局所平滑効果が観測される。 2.ユークリツド空間上の定数係数方程式の初期値問題について、主部が実主要型で低階項を持たないとき、1と類似の結果が幾何学的なフーリエ解析によって得られる。これは主部がラプラシアン等の極めて限られた場合に知られていた結果の完全な一般化である。 3.トーラス上では微分の意味での局所平滑効果が起きないので、ユークリッド空間上の場合と比べて、適切性のための低階項に対する条件が厳しくなる。実際2階の偏微分方程式すなわちシュレディンガー型発展方程式の場合、初期値問題が適切になるための必要十分条件は1階項の虚部の実ベクトル場がスカラーポテンシャルをもつことである。 4.3に対応する半線型方程式の初期値問題について、3の条件に対応した条件のもとで初期値問題は時間局所適切である。逆に非線型項が未知関数の正則関数からなる空間変数についての発散形式のときには3の条件はみたされず、初期値に対する解の連続性が破綻して適切でないことがしたがう。
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