非コワレフスキー型の時間発展型擬微分方程式系で、初期値問題が未来にも過去にも一意可解であるものは分散型とよばれる。例えば、斉次方程式系で言うと、未知関数の時間変化が1より真に大きい歪対称擬微分作用素の作用と釣り合っているものは分散型になる。量子力学に現れるシュレディンガー方程式や、古典力学の非線型波動分野に現れるコルトベーク ド フリース方程式を代表例とする数多くの方程式は、既に分散型であることが証明されているか、或いは分散型になることが期待されている。筆者は、分散型作用素あるいは分散型であることが期待される作用素を偏微分方程式論及び調和解析の立場で考察しているが、主部である実主要型作用素の解析と密接に関わっており、本質的には分散型作用素の理論と実主要型作用素の理論を研究していると言ってよい。さらに、非線型波動分野等の物理学に現れる非線型方程式の可解性の理論構築への応用も併せて研究している。 平成15年度の成果は、与えられた2次元トーラス上の3階の作用素が分散型になるための必要十分条件を求めることに成功した。これは現在投稿準備中である。一般に与えられた作用素が双曲型或いは分散型になるための必要十分条件を求めることは極めて難しい問題で、解決されたケースは非常に限られている。分散型の場合では、数直線上の2階及び3階の作用素と一般次元のトーラスの2階の作用素の場合に限られており、一般次元のユークリッド空間ではこの種の結果は一切知られていない。コンパクト多様体上では主表象のハミルトン流がすべて捕捉され解の平滑効果が起こらないために低階項の条件が強まり少し扱いやすくなるが、多次元トーラスの場合でも高階の方程式の場合への一般化は非常に難しいと考えられていた。筆者の結果は今後のコンパクト多様体上の分散型作用素の特徴づけの一般論構築への足がかりになると思われる。
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