研究概要 |
バナッハ空間に値をもつ関数u(t)を未知関数とする線形常微分方程式(以下,発展方程式と呼ぶ)のコーシー問題(CP;x)u'(t)=A(t)u(t)(t∈[0,T]),u(0)=xに関する研究結果を報告する.基礎になる空間は2つのバナッハ空間の組(X,Y)であり,YはXに連続的に埋め込まれていると仮定し,各t∈(0,T]に対して,Xにおける閉線形作用素A(t)の定義域は一定でYに等しいとする.目的はコーシー問題(CP;x)の適切性,すなわち関数空間C^1([0,T];X)∩C([0,T];Y)のクラスで,各t∈[0,T]に対し(CP;x)を満たすようなu(t)が唯一つ存在することを見つけること,さらにu(t)が初期データxに関して連続的に変化することを示すことである.発展方程式の研究においては,sを初期時刻とするコーシー問題u'(t)=A(t)u(t)(t∈[s,T]),u(s)=xを考え,初期データxにこの問題の解を与えるような作用素(発展作用素と呼ばれる)の族{U(t,s):(t,s)∈Δ}(ただしΔ={(t,s);0【less than or equal】s【less than or equal】t【less than or equal】T})を構成することが中心的な課題である. 本研究ではコーシー問題(CP;x)を差分近似理論の立場から考察し,作用素の族{A(t);t∈[0,T]}に対して次の安定性条件を課す. 2つの定数M【greater than or equal】1とλ_0>0が存在して,(I-(t_i-t_<i-1>)A(t_i))^<-1>∈B(X)であり,かつ||Π^k_<i=1>(I-(t_i-t_<i-1>A(T_i))^<-1>||_<B(X)>【less than or equal】Mが,0【less than or equal】t_0<t_1<【triple bond】<t_k【less than or equal】Tかつt_i-t_<i-1>【less than or equal】λ_0(i=1,2,...,k)を満たすすべての有限数列{t_i}^k_<i=0>に対して成り立つ. 区間[0,T]に対する分割P={0=s_0<s_1<【triple bond】<s_k=T}から定まる,Δ上の近似発展作用素U(t,s;P)=Π^<i-1>_<l=p>(I-(s_l-s_<l-1>)A(s_l))^<-1>(ただし,t=∈[s_<i-1>,s_i)∩[0,T],s∈[s_<p-1>,s_p∩[0,T])は,分割の最大幅max_<1【less than or equal】k【less than or equal】K>(s_k-s_<k-1>)を0に近づけたときに,発展作用素U(t,s)に収束することを証明した.さらに本研究においてYがXで稠密であることは仮定していないことも注目に値する.この設定により,具体的な偏微分方程式の初期値境界値問題の古典解をみつけることに応用可能な抽象理論が得られた.
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