異なる伝播速度をもつ空間3次元の非線形波動方程式系の初期値問題の小さいデータに対する解の時間大域存在と爆発について研究を行なった。非線形項が未知関数の導関数のみに依存する場合は、自己相互作用項を含まなければ、小さいデータに対して解が時間大域的に存在することが、横山和義氏(北海道工業大)により示されていた。この結果を受けて、片山聡一郎氏(和歌山大)は、非線形項に未知関数とその導関数が共に含まれる場合にも、自己相互作用項及び未知関数のみに依存する項を含まなければ、小さいデータに対する大域存在定理が成り立つのではないかと予想し、この予想を裏付けるいくつかの部分的な結果を得ていた。これに対して、今年度の本研究では、片山氏の予想が一般には成り立たないことを示す反例を構成することに成功した。これ以外に、Grozdena Todorova氏(University of Tennessee)と非線形クライン・ゴルドン方程式の定在波解の強不安定性に関して共同研究を行なった。非線形項が単一冪型の場合、定在波解の軌道安定性・不安定性に関しては完全に分類されていたが、爆発による強不安定性に関しては、振動数が0である定常解以外には知られていなかった。これに対して、Todorova氏との共同研究では、振動数が小さい場合に強不安定性を示すことに成功した。
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