本年度の研究実績は以下の通りです。 多くの非線形現象の時間的変化を数学的に扱える方法として『力学系理論』があります。通常の力学系の安定性の理論は、既に多くの研究者によって様々な角度から研究されています。本研究では、解の一意性が示されていない非線形現象を解明する目的で、多価力学系に対する安定性理論を展開する必要があります。 従来の理論は、解の一意性が保証される数理モデルで記述される現象に対して有効でした。そこで昨年度、解の一意性が保証されていない場合にも適用できるように、今までの抽象安定性理論を一般化しました。 昨年度の研究成果を踏まえ、本年度は時間周期多価力学系に対する安定性理論の構築を行いました。具体的には、これまで研究してきた時間周期で変化する凸関数の劣微分に支配される非線形発展方程式の可解性、安定性の抽象的理論結果を発展させ、時間周期多価力学系に対する安定性理論を構築しました。そして、時間周期多価力学系に対する時間周期アトラクターの存在を示すとともに、その特徴付けを行いました。 また本年度の研究成果により、時間周期地域経済成長問題の安定性を非線形発展方程式論の立場から研究できるようになりました。地域経済成長問題は、解の一意性が保証されていません。従って、本年度構築した時間周期多価力学系に対する安定性理論を用いることで、地域経済成長問題の解の時間周期漸近挙動を解の一意性なしで研究できるようになりました。つまり、時間周期大域的アトラクターの存在とその特徴を得ることができ、大域的アトラクターの立場から時間周期地域経済成長問題の安定性を議論できるようになりました。
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