昨年度に引き続き、離散群論のアイディアを作用素環論、特に、フォンノイマン環の研究に応用することを考えた。この問題は研究計画で既に述べた通り、簡単なものではないが、手始めに離散群論に於ける重要な構成法の一つであるHNN拡大の作用素環版、特に、フォンノイマン環版を考えた。群論で知られる構成法は一見、フォンノイマン環でも有効に見えるのだが、実は、フォンノイマン環特有の事情からそうではない。この点を以前に融合積研究で得ていた簡単な事実を参考に克服した。それに続き、具体的な設定の下で、フォンノイマン環のHNN拡大の基本的な性質を詳細に調べた。これらの仕事は、昨年度後半から進めていたもので現時点で得ている結果の約半分を5月に行われたUCLAでの国際研究集会で発表し、その後、"HNN extensions of von Neumann algebras"というタイトルの論文にまとめ、プレプリントとして発表した。 一方、研究代表者が期待する非アメナブルフォンノイマン環のうち、ある意味で最も重要な自由群因子環の本格的研究に不可欠な自由エントロピー理論の研究に本格的に乗り出し始めた。手始めとして、この道の専門家の日合文雄氏(東北大学大学院情報科学研究科・教授)などの手助けを借り、1変数の自由エントロピーを深く理解することに挑戦した。副産物として、いくつかの結果を得、それらを含め、日合氏、及びD.Petz氏との共著論文に纏めた。
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