本年度は主に、二次元複素力学系とその応用に関する、以下の二つの主題について研究を行った。 (1) 高次元複素力学系の立場から、Henon写像の解析をJ.Smillie氏(Cornell University)とともに行った。前年度、複素Henon写像が双曲的になるための位相的な十分条件を提示したが、今回はこの応用として、今までにない手法で双曲的Henon写像を構成した。これは、ある意味で二つの一変数多項式を"fusion"して得られるものであり、一般化Henon写像族の一変数多項式部分を固定してヤコビアンのみを動かした1-パラメータ族内で、この一変数多項式から今回構成した写像まで動いた時、必ず分岐を起こさなければならないという事実が証明できた。ただしこの例が、いかなる拡大的な一変数多項式の射影極限とも位相共役にならないかどうかはまだわかっていない。 (2) 物理学者の首藤啓氏(東京都立大学)と池田研介氏(立命館大学)らとともに、量子トンネル効果と高次元複素力学系との関係を研究した。特に、複素力学系理論における有名な予想(すなわち、正規族の議論から定まるジュリア集合Jとポテンシャル論的に定まるジュリア集合J^*は一致するか?という問題)とトンネル効果の物理的描像の説明との間に、密接な関係があることを発見した。
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