近未来に稼働する予定の人工衛星望遠鏡が打ち上がり、観測を開始すると赤方偏移10以上という深宇宙での直接観測が可能になると言われている。また、最近公表された宇宙背景放射の揺らぎと偏光の観測では宇宙最初の天体形成は赤方偏移でおよそ20であったと見積もられた。このような観測的進展もあり理論的な見地からの宇宙初期の天体の形成の研究も急務となっている。このような宇宙初期の天体形成、星形成は様々な条件の相違から現在の天体形成とは性質が異なることが予想される。この点を踏まえ、本研究では、原始ガス雲の熱的、力学的な物理素過程の詳細を考慮して形成過程の研究を行う。本年度は、主に宇宙論的な初代天体の形成時に形成される原始ガス雲の分裂片(数千から1万太陽質量)の自己重力的収縮を非球対称性および回転の効果を考慮に入れて調べ、再分裂がどの程度おこりやすいかを議論した。宇宙論的に示唆されている宇宙の再結合時における密度揺らぎを持った、ダークマターと原始ガスからなる系の進化を宇宙膨張、自己重力および非平衡化学組成進化を考慮した数値計算を行うと、初代の天体は100万太陽質量程度の母天体から形成され、ぼぼ球状の形をした高密度領域から形成されることが示唆されている。しかし、さらに高密度への進化の過程は宇宙論的な考察からは分かっていない。ここでは、球状の初期形状を持った孤立した単体の初代天体母天体を考え、ポリトロープ状態方程式を用いて近似的に水素分子冷却による状態方程式を再現したモデルによって初代天体形成時のガス雲の自己重力収縮中における形状の進化を系統的に調べた。その結果、実効的比熱比が1.1以上の場合には非球対称なゆがみは成長しないことが分かった。これは実効的な比熱比が約1.0である現在の星形成に比べて宇宙最初の星々は形成中に分裂しにくかったことを示している。
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