宇宙からやってくる数百keVの軟ガンマ線には、重元素生成に伴うラインガンマ線や、時に百万光年にもわたる大規模な粒子加速に伴う非熱的な放射が現れる。本研究では第2世代CdTeダイオードの優れた検出効率と分光能力を活かし、アクティブシールドによるバックグラウンド除去技術と組み合わせて、軟ガンマ線の高感度検出器の実現を目指す。具体的には、プロトタイプ検出器を、軽量・低消費電力という枠内で製作し、2003年度は、これを大気球に搭載して実際の宇宙観測まで行なった。 主検出部は、本研究で昨年度に実証が進められた、ガードリング電極つきのCdTeダイオードの発展型のピクセル検出器を採用した。また、CsIシンチレータとフォトダイオードを組み合わせたものを、シールドとした。読み出しは、我々のグループの別の研究で実績が得られた多チャンネルLSIを用いた。本検出器は、2003/09/03の夜に、宇宙科学研究所の大型気球B500-2のペイロードの一つとして高度41kmの飛揚をし、ブラックホール候補天体Cyg X-1のいる空を、2時間にわたって追跡した。合計3種のガンマ線観測装置と新型のデータ処理システムを搭載した、ゴンドラの観測部は、私の主導の下で、4チーム合同で制作された。検出器は正しく動作し、リーク電流の低い、CdTeダイオード検出器の優れた特性が確認された。検出器バックグラウンドを実測した結果、姿勢検出の精度さえあがれば、十分に天体を検出できることが確認された。 本研究により、CdTe半導体を用いた次世代ガンマ線検出器に必要な基礎技術の、ほとんどが実証された。特に検出素子の特性や、読み出しシステムのスキームが確立したことから、今後は、検出器の実装の高密度化や、読み出し回路の高集積化など、より高性能を目指した開発を進めることが重要となる。
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