研究概要 |
米国サクラメントピーク天文台に設置されたAdvanced Stokes Polarimeter(ASP)による偏光スペクトル観測を、上空の高温コロナ領域を観測する科学衛星「TRACE」/「SOHO」と共同で実施し、加熱やダイナミックな活動を示す太陽活動領域コロナの成因を調べる目的で、ASPの偏光スペクトル観測を平成15年3月など今まで3回実施してきた。ASPは630nmにあるZeeman効果を示すFe吸収線の高分散スペクトルをStokesベクトルと呼ばれる偏光状態で高精度に測定する装置であり、吸収線輪郭の詳細解析から、太陽面(光球)磁場ベクトルや視線方向速度場を精度良く決定することが可能となる。なお、2006年に打ち上げを目指して開発がすすめられているSolar-B衛星にも改良版が搭載される予定である。 2000年11月に取得したデータの解析から、浮上磁場領域における浮上する小磁場の時間変化や磁場の集積度に関して新しい知見を得た(平成14年度報告書)。この成果は学術論文にまとめられ、The Astrophysical Journal誌595号に掲載された。 活動領域にある太陽黒点の外周部においては、マイクロフレア(トランジェント・ブライトニング)を始めとする活動現象がコロナでは良く観測されている。これらのコロナ加熱・活動は黒点の生成・崩壊と関係する磁場の発展と密接に関わりあっていると考えられているが、具体的には不明である。2003年3月の観測では太陽黒点周辺の磁場に特に注目して観測を行い特徴的なデータを得た。黒点周辺ではMMF(Moving Magnetic Feature)と呼ばれる小さな磁気フラックスが1km/s程度の速さで放射状外向きに移動する現象が知られており、コロナ活動との関連も視野に入れて、3次元的磁場形状や速度場を調べた。高速に移動するMMFや低速に移動するMMFの存在とガス流のバルクフローの存在が明らかになりつつあり、3次元的磁場形状とも関係が見え始めている。 なお、今までの解析では、ASP,TRACE,SOHO/MDIのデータを中心に取り扱ってきたが、SOHO搭載のCDS(極端紫外線スペクトル装置)も共同観測に参加した。本年度、低温側コロナおよび遷移層における温度分布および視線方向速度場との関連を調べる目的で、CDSデータについても解析を実施した。しかし残念ながら高速の速度情報は得られたものの、装置の検出能力にために十分な有用な情報を得るには至っていない。
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