今年度は、超対称標準模型における量子補正の影響に関して、以下の研究結果を得た。 (1)B中間子が、チャーム量子数を持たないハドロンと光子に崩壊する反応は、標準模型では強く抑制されているために、未知の物理からの寄与に敏感である。超対称標準模型では、荷電ヒッグス粒子やチャージーノといった未知粒子を含む1ループグラフの寄与が一般に大きくなり、この崩壊の分岐比の測定結果から、未知粒子の質量に対して厳しい条件がつく。 しかし近年、理論のパラメーターのある領域では、この崩壊に対する2ループグラフの寄与が1ループと同様の大きさになり、その結果、未知粒子の質量に対する条件が大きく変更されうることが指摘された。そこで私は、荷電ヒッグス粒子の寄与に対する2ループグラフの補正を、従来の計算で使われていた近似よりも正確に計算し、その振る舞いを調べた。その結果、超対称粒子の質量が比較的軽い場合には、従来の近似と正確な計算とのずれは無視できなくなることが示された。 (2)超対称標準模型が予言する新粒子のうち、チャージーノの相互作用は、理論のパラメーターを決定し、そこから統一理論を検証する際に非常に重要である。私は、チャージーノとヒッグス粒子の結合の強さに対する、1ループの量子補正を全て計算した。その結果、量子補正の大きさは10%程度となることがわかった。また過去には、クォークおよびスクォークのループからの寄与が計算されていたが、そこで入っていなかった粒子からの寄与も、前者と同程度に効くことがわかった。
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