研究概要 |
核子あたり数十MeVの入射エネルギー領域の中性子過剰核などの衝突をAMDで計算することにより,非対称核物質の状態方程式がいかにして得られるかを研究した. このエネルギー領域では,核物質の膨張に伴って多数のフラグメント(破砕片原子核)が同時に生成する(多重破砕)のが特徴的である.フラグメントのアイソスピン非対称度(陽子中性子比)は,「蒸留」の結果として系全体の非対称度より小さくなることが実験では知られているが,AMD計算でも同様の結果を得た.また,二つの異なる反応系におけるフラグメントの生成量の比がアイソスケーリング則Y_2(N,Z)/Y_1(N,Z)=e^<αN+βZ>を満たすことが実験で知られているが,熱平衡を全く仮定しないAMD計算でもアイソスケーリングが得られた.このことは,動力学的要素の多い反応においても,何らかの統計法則がフラグメントの組成を支配していることを示している. また,熱平衡を仮定すると,フラグメントの非対称度に関するある量とアイソスケーリングのパラメータαの間に比例関係があるはずであり,その比例係数が対称エネルギーであるということを,理論的に示した.そして,AMD計算の結果がその比例関係を満たしていることが確認できた.この結果により,反応機構の詳細やモデルにはほとんど関係なく,多重破砕反応に関する観測量を用いてフラグメント生成時の対称エネルギーを直接導き出せるということになる. このほかに,対称エネルギーにおける表面効果や,フラグメントの二次崩壊の影響なども検討した.
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