前年度までの研究に引き続き、重イオン多重破砕反応のダイナミクスと核物質の状態方程式のアイソスピン依存性(様々な密度における対称エネルギー)との関連を、反対称化分子動力学(AMD)理論を用いて研究した。 前年度までは計算の簡単なCa+Ca衝突を用いて多重破砕と状態方程式の関連を理論的に解明してきたが、今年度はSn+Sn衝突を計算し、実験データとの詳細な比較を行った。その結果、通常のAMD計算では横方向へのフラグメント放出が過小評価されていることが分かり、この問題を早急に解決すべきと判断した。原因としては、(1)理論的不定性のある核物質中での二核子衝突断面積を従来のパラメータよりも大きく選ぶべきである可能性と、(2)横方向や高エネルギー部分など位相空間密度が低い部分では軽いフラグメント(重陽子など)の直接的な生成(コアレッセンス)をAMDの時間発展の中に取り入れる必要があること、が考えられる。(1)と(2)の両方の改良した計算では、実験データのフラグメントの角分布と電荷分布が非常によく再現できることが分かり、フラグメントのアイソスピン組成やアイソスケーリング則を実験と詳細に比較することが可能となった。 (2)のコアレッセンスについては、より正確な定式化を行う必要があると考えられる。コアレッセンスを取り入れた計算では、陽子・中性子の多重度が大きく変わることが分かったので、フローにより高密度核物質の性質を探る際にも重要であるといえる。 また、関連した研究として、AMDを用いて熱平衡状態を作り、カロリー曲線など統計的性質を調べた。カロリー曲線にバックベンディングが現れ、AMD計算は液相気相相転移と無矛盾であることが確認された。
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