研究概要 |
新しい核種や元素の存在を明らかにすることは,原子核が存在し得る限界領域の確認や,不安定領域下での核的特性の検証などについて,新しい知見をもたらしてくれる.とりわけ,中性子不足の軽アクチノイド核種領域には,現在までその存在が確認されていない核種群や,その存在が確認されていても壊変特性が未解明のために正式な核情報を提供できない核種が,数多く残されている.この領域での未知核種の探索とその壊変特性に関する研究は,中性子が不足している原子核の安定性や核構造を理解する上で非常に興味深い.それらの主要な壊変形式は,電子捕獲壊変であるが,一方で,分岐比の小さいα壊変特性は,超アクチノイド元素の原子核質量値を決定する上で重要な役割を果たす.通常,超アクチノイド元素の核種同定は,α壊変連鎖を逐次観測し,α娘核までの到達によって行われている.そのα壊変連鎖の末端を,さらに下っていくと精度良く原子核質量値が求められている既知α娘核まで到達できる.そこから,各々のα壊変エネルギー(Q_α値)を積み上げていくことによって,超アクチノイド元素の原子核質量を精度良く決定することができる.しかしながら,α壊変連鎖の途中に位置する中性子不足アクチノイド核種の分岐比の小さいα壊変特性のために,そのα壊変エネルギーの情報を得ることができず,超アクチノイド元素の原子核質量を正確に決定することができない. そこで,本年度の研究実績として,昨年度の本予算で製作した高効率のα線検出器チェンバーを使用して,日本原子力研究所タンデム加速器棟照射室のR2ビームラインで,オンライン実験を行った.このオンライン実験での研究対象核種として,本予算の実施以前より研究を行ってきた中性子不足アクチノイド核種領域のアメリシウム同位体(_<95>Am)に的を絞った.照射ターゲットには,^<233>Uもしくは^<235>Uを,入射イオンビームには6^Liを使用した.これまで,電子捕獲壊変並びにα壊変特性に関する実験を行ってきていたが,実験データの精度の点において十分な結果が得られてなかった.そこで,昨年度中予算で製作した高効率のα線検出器チェンバーを用いて,中性子不足アメリシウム同位体の^<233>Am,^<234>Am,^<235>Am,^<236>Amの4核種のα壊変特性に関する系統的な実験・データ解析を本年度で行った.その結果,従来よりも非常に精度の良いデータが得られ,核データのデータベースに対して新しい値を提供することができた.この成果として,研究代表者の博士(理学)の学位論文(東京都立大学大学院理学研究科2004年,題目"Alpha-decay Properties of Neutron-deficient Americium Isotopes")として,まとめることができた.また,この研究発表は,雑誌論文のα-decays of neutron-deficient americium isotopes, Phys.Rev.C 69,14308-1〜11 (2004)で行った.
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