本年度は、昨年度に引き続き、銀河団の活発な活動の起源を追及する研究を理論、観測の両面から行った。 銀河団の中心部からは強いX線が放射されているが、温度の大きな低下がないことにより、何らかの加熱源があって、X線で放射されたエネルギーを補完していると予想されているが、その加熱源は明らかになっていない。私は鈴木建(京大)、和田桂一(国立天文台)の各氏と協力しながら、太陽コロナ加熱モデルをヒントにした、新しい音波による加熱モデル(通称津波モデル)を提唱した。理論計算はこのモデルがこれまでに得られている観測事実を矛盾なく説明できることを示した。現時点でこのモデルの研究を行っているのは、世界的に見ても我々のグループのみであり、きわめて独創的な研究である。一方、津波モデルの正当性をより確実にすべく、C.L.Sarazin氏(米国バージニア大学)らと、大集光力を特徴とする欧州のニュートン衛星を用い、銀河団Abell 133の中心部のX線スペクトル観測を行い、銀河団ガスの温度、重元素分布を明らかにした。その結果津波モデルが予想するように、弱い衝撃波が銀河団の中心部を通過して周囲を加熱していることが明らかになった。 銀河団環境効果の研究も行った。銀河団中の銀河は、銀河団ガスの影響や銀河同士の相互作用などで、銀河団外の銀河とは異なる進化をしていると考えられている。しかし私は銀河進化の理論モデルと観測結果を比較することで、銀河団中の銀河は銀河団に取り込まれる以前から独特の進化をしていることを明らかにした。
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