本年度は銀河団のエネルギー収支と進化に重点をおいて研究を行った。 銀河団の中心部(コア)では何らかの加熱源によりX線で放射されたガスのエネルギーが補われていると考えられているが、その加熱源が何であるかはわかっていない。現在のところ銀河団の中心にある巨大なブラックホールがその加熱源であるという考えが主流であるが、加熱の安定性に問題がある。そこで我々は銀河団ガスの大規模な流れ(津波)が加熱に働いていると考え、スーパーコンピュータによるシミュレーションを行った。その結果津波により、銀河団コアに乱流が発生し、その渦により熱がコア外部からコアに運ばれることを世界で初めて見出した。さらにそのような乱流を日本が来年度打ち上げるAstro-E2衛星で観測できることを模擬観測で明らかにした。また津波が実際に発生しているかどうかを調べるため、C.L.Sarazin氏(米国バージニア大学)らと、大集光力を特徴とする欧州のニュートン衛星や、高解像度を特徴とするアメリカのチャンドラ衛星を用い、銀河団のX線観測を行った。その結果銀河団内部には複雑なガス構造があり、津波が発生している可能性高いことがわかった。 銀河団銀河の環境効果についても前年度から引き続いて研究を行った。その結果、銀河が銀河団中に存在するときには、銀河は周囲の高温ガスからの熱で蒸発することがわかり、さらにその蒸発効果は銀河が銀河団に突入する以前でも起こりうることを示した。
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