研究概要 |
本研究の目的は,一般相対性理論の数値シミュレーションを行う際の,Einstein方程式の最適な定式化を与える数学的な原理を提供することである.これまでに世界各地で試行錯誤的に行われていた過去20年の研究に対して,我々は,すべての試みがLagrange乗数を用いて統一的に理解できることを提案している.我々のアイデアは,時間発展と共に,系が漸近的に拘束面に収束してゆくような定式化を行うことを可能にし,本年度も具体的な提案(拘束条件伝播行列の対角化分類)と一般化(高次元モデルでの定式化、流体を含めた定式化)を発表した.我々の研究は,世界的な注目を集めており,提案のいくつかはすでに他のグループによって数値計算に応用され、これまで以上に安定で長時間持続するシミュレーションを可能にしている。また,世界の数グループを組織して数値相対論の共同テスト実施研究も提案・進行中である.すでに基本テスト問題の提案は終了し、現在は各グループの計算結果比較を実施している。 本年度も、定式化問題に対するレビューの執筆依頼・国際会議での招待講演・海外研究機関への招聘にも応じた.現在の研究は,大規模並列計算を用いたテスト段階にあり,我々は独自に並列計算機環境を整え,数値計算を実行中である.現在は,さらに数学的な背景(発展方程式の双曲性問題,拘束条件式の時間発展解析,初期値境界値問題としての問題設定など)を援用して統一的に理解し,より一般的・汎用的な数値計算コードを用いた実証へと研究を進めている. 以上とは別に,一般相対論が描く特異なダイナミカル現象の抽出として,ワームホール構造の時間発展を明らかにしたり、回転ブラックホールの周辺の重力波時空を取り扱う新しい定式化を提案した。宇宙物理学的な視点から、重力波観測の統計量から巨大ブラックホールの形成過程を逆に推定できることも明らかにした。
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