本研究を遂行するにあたり、本年度は以下の成果を得た。 1 低次元C_<60>ナノ構造の振動状態の測定を行う高分解能電子エネルギー損失分光(HREELS)装置用真空槽の排気系の改良を行った。現有のHREELS用真空槽はこれまで140l/sのイオンポンプで排気を行っており、真空度は2×10^<-10>Torr程度であった。本研究の目的の1つにアルカリ金属を共吸着させたC_<60>ナノ構造の電子・振動状態の解明があるが、この真空下では30分程度でアルカリ金属吸着C_<60>に大量のOHや酸素が吸着することがこれまでの振動準位の測定でわかっている。現有のHREELS装置を用いた測定では1試料あたり30分から1時間かかることを考えると、上記の真空度で本研究を行うのは困難を極める。そこで、真空槽の排気系の改良として、本研究の研究補助金を用いて500l/sの排気速度を有するイオンポンプを購入し設置した。イオンポンプを取り替えることによって、HREELSの測定が十分可能となる6×10^<-11>Torr程度の真空度を得た。 2 低次元C_<60>ナノ構造を形成する基板として、高指数シリコンカーバイド面を高温アニールすることによりnmオーダーの等間隔ステップを持ったグラファイト表面(鋸状表面)を用いる。本年度は購入したSiC高指数表面をアニールし、アニール温度に依存した表面形状を走査トンネル顕微鏡(STM)で観測することによって鋸状グラファイト表面の作成方法を確立した。 3 HREELS、STM、光電子分光のどの真空槽にも設置が可能である簡便なC_<60>蒸着装置を新たに作成し、すでその表面上でのC_<60>の構造が既知であるSi(111)-(7×7)表面を用いて性能のチェックを行った。
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