研究概要 |
量子ホール系のなかでも,ランダウ準位占有率vが1/(奇数)の場合の強磁性状態が最近の注目を集めている.最低ランダウ準位が1/(奇数)だけ満たされた場合には,たとえゼーマン・エネルギーがゼロの極限でも,電子相関のために系の基底状態は強磁性状態となる.それゆえ,系の低エネルギー励起としては長波長のスピン波励起が重要となり,スピン励起が系の低温での特性を支配することになる.こうした低エネルギー域での系の動的特性は,様々な実験によって追究されているが,これらに関する理論的研究は,分数占有率を持つ系を扱う際の理論的困難(平均場近似が全く役に立たない等)もあって,v=1系に対するハートリー・フォック理論などが有る程度であった.しかし,(遍歴電子)強磁性体の低温での特性に関しては,乱雑位相近似を含めた平均場的手法では(しばしば定性的にすら)不十分である.それゆえに,我々は線形近似である乱雑位相近似のレベルを越えて,量子多体系ゆえの非線形性を追究している.具体的には,まず二層量子ホール系における低エネルギー域での動的特性について,有限系の厳密対角化法により追求した.層自由度を記述する擬スピン自由度に対し,その応答関数のスペクトル関数の計算を絶対零度の場合に対して数値的に行った.その結果として,擬スピン強磁性相においては,低エネルギー励起である擬スピン波励起が系のトンネル電流特性において重要な役割を果たしていることが明らかになった.さらに,非強磁性相では層間トンネル電流に寄与する励起が高エネルギー側にシフトして,トンネル電流特性が強磁性相のそれとは全く異なるものとなることも明らかになった.
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