半導体量子点におけるスピンの振る舞いを研究するために、電子をドープしたInAs量子点についてのスピン緩和の研究を行った。円偏光したレーザー光で試料を励起したときの発光スペクトルの偏光度を精密に測定するために、光弾性変調器と赤外用光電子増倍管と単一光子計数を組み合わせたシステムを構築し、このシステムにより1.4μmまでの波長領域で0.1%より小さな偏光度も測定可能となった。励起エネルギーがGaAsバリア層より高いか低いかによって量子点からの発光の偏光は符号を変える事が分かった。また、その偏光度は外部から弱い磁場を印加することで消失したので、この事からこの系でのスピンの緩和時間が大変長いことが分かる。これは発光強度の時間分解測定によってより直接的に確認された。量子点が正負の偏光を示すメカニズムや、ドープされた電子数に対する依存性について、今後引き続き研究する予定である。 励起子状態のコヒーレント制御については、今後、少数の量子点から放射される微弱なコヒーレント信号を観測する必要が生じることが予想されるので、そのための強力なツールとなる高感度の検出システムを構築した。システムはヘテロダイン検出の考えに基づいており、サンプルからの散乱光や外部光の影響を受けずに高感度に微弱な信号を検出することが出来る。これまでのところ、反射配置において、GaAs基板上の15層程度の量子ドットについて四光波混合信号を検出することが出来ており、さらに1層程度の試料でも測れるように改良を続けている。半導体基板上に自己組織化して成長する半導体量子点についての四光波混合実験はあまり多くなく、導波路状に微細加工した試料で断面から入射したり、基板より低いエネルギーギャップを持つドットでの透過配置の実験などがあるが、このように基板除去や微細加工等の複雑なプロセスを経ずに簡単に測れるようになれば、様々な量子ドット試料において測定が可能になるので大変意義があると思われる。
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