今年度は、ソリッドイマージョンレンズと量子ホール素子による検出器を組み合わせることで、テラヘルツ光の高分解能な空間分解検出システムの構築に成功した。このシステムを用いて、量子ホール電子系から放射されるサイクロトロン発光の強度分布の観測を行い、伝導体における電子温度分布の詳細な様子を初めて明らかにすることができた。さらに、電気抵抗測定を併用して、量子ホール状態・量子ホール効果破綻状態・量子ホール状態間遷移領域、という3つの状態における電子分布の比較観測を行った。その結果、異なるランダウ準位間の散乱と1つのランダウ準位内の散乱が全く異なる機構にもとづいており、各々に関わる電気抵抗の発現も異なった様相を示すという興味深い事実が明らかにされた。この実験結果から、伝導体内を流れる電子の散乱機構に関するモデルを提案した。 また、上記の研究の途中で、伝導体の静電ポテンシャル分布を、2次元電子系の磁気抵抗振動を利用して観測するという全く新しい原理にもとづいた実験手法を考案した。この手法では、電子状態を乱すことなく非接触で観測できる優れたシステムとなることが期待されたため、当初の研究計画には入っていなかったが、その開発研究も平行して行った。最終的には、約10μmの分解能で観測できるシステムを立ち上げた(分解能は、今後、様々な工夫により改善可能である)。この成果は、今年度8月に英国で開催された国際会議(15th International Conference on High Magnetic Fields in Semiconductor Physics)において発表した。
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