研究概要 |
カーボンナノチューブは、直径や螺旋度のわずかな違いにより金属から半導体まで多様な電気的性質を示すことが知られている。このうち、半導体チューブのバンドギャップは最も基本的な物理量である。しかしながら、実験上の困難から幾何構造を特定した個々のナノチューブのギャップ値は未だに正確な値が決定されていない。理論的には有効質量近似や強束縛近似を用いた研究により、ギャップが直径に反比例することが予言されている。また、密度汎関数法による定量的な研究も数多く見られる。しかしながら密度汎関数法は半導体のギャップ値を一般に過小評価することが知られている。そのためギャップ値は未解決の問題として残っている。 我々は、まず密度汎関数法の範囲でギャップの直径依存性を再検討した。その結果、直径0.8nm近傍でクロスオーバーを起こし、それより直径の小さい領域では直径が小さくなるにつれてギャップ値が小さくなることを見いだした。また、この領域では構造最適化の影響が大きく、格子緩和によりギャップが小さくなることもわかった。次いで電子間相互作用の影響をGW近似で調べた。GW近似は多体グリーン関数法に基づいており、多数のバルク半導体のギャップ値を正確に再現することが知られている。直径0.4-0.6nmのナノチューブの準粒子バンド構造を計算した結果、金属チューブに対する電子間相互作用補正の効果は小さいことが分かった。一方、この領域の半導体チューブに対する電子間相互作用補正は大きく、ギャップ値が大幅に開くことがわかった。 本年度は上記のナノチューブの準粒子バンド構造の研究の他に、関連物質であるC_<60>ポリマーも取り扱った。C_<60>ポリマーの一種であるrhombohedral相の積層依存性を密度汎関数法を用いて調べた。その結果、従来提案されたNunez-Regueiroモデルとは異なる積層構造がより安定であることがわかった。これは、最近実験的に指摘された結果を支持する結果である。この構造に対する電子構造も計算し,伝導帯の底に大きな状態密度を有することがわかった。
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