研究概要 |
本研究では広島大学放射光源HiSORアンジュレータービームラインに接続した高分解能光電子分光装置の改良、性能向上をはかった。その結果、hν=40-150eVの真空紫外・軟X線領域の放射光利用の光電子分光では、世界最高の高エネルギー分解能(7-20meV)を達成した。また低温物性と直接関わる電子状態を観測するため、試料温度の低温化を進めた結果、6Kが達成できるようになった。 低温で(擬)ギャップを持つ近藤半導体CeRhAs、近藤半金属CeRhSb単結晶試料について詳細な温度可変高分解能共鳴光電子分光実験を行った。その結果、CeRhAsのCe4f電子状態に降温とともにエネルギーギャップが形成される様子を直接観測することができた。さらにフェルミ分布関数の温度広がりを利用してフェルミ準位よりも上(非占有電子状態側)の近藤共鳴ピークを直接観測することに初めて成功し、近藤温度が1500K程度であることを明らかにした。価数揺動物質であるCeRhX(X=In, Sn)単結晶について高分解能共鳴光電子分光実験を行った。Ce4f状態、Rh4d状態ともにCeRhX(X=As, Sb)と異なることが示され、フェルミ準位近傍の電子状態の違い(c-f混成の違い)がエネルギーギャップ形成に深く関与していることが明らかとなった。 都立大学との共同研究で理想的な一次元電子系と見なされるカーボンナノチューブの温度可変高分解能光電子分光実験を行った。その結果、フェルミ準位付近の光電子スペクトル強度のエネルギー依存性、およびフェルミ準位直上でのスペクトル強度の温度依存性が「べき乗則」に従うことが明確に示された。これは朝永-ラッティンジャー流体が実現していることを実験的に初めて証明するものであり、Nature誌に掲載された。この成果は、本科学研究費補助金を受けて測定系を改良・整備したことが大きく貢献している。
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