研究概要 |
今年度はTm_<0.05>La_<0.75>Yb_<0.2>Te(x=0.75)とTm_<0.05>La_<0.55>Yb_<0.4>Te(x=0.55)の試料を作製し,比熱の測定と中性子非弾性散乱(KENS, LAM-D分光器)の実験を行った.測定システムの整備では,引き抜き磁化測定装置が完成した.その結果,x=0.95の段階ではっきりと見えていた結晶場分裂は,x=0.75で既にブロードに広がり,約10meVまで連続的に磁気励起が存在すること,ゼロ磁場でも最低温度まで磁気比熱が現れることが判った.非弾性散乱スペクトルと磁気比熱の結果から,LaをYbで置換することで,すなわち伝導電子数を減らすことにより,単に結晶場分裂が小さくなるだけではなく,混成効果により4f準位そのものも不安定になって幅が広がることが判った.更にx=0.55になると,磁気励起はほとんど消失して幅2meV程度の準弾性散乱となり,それに伴ってゼロ磁場の磁気比熱がより大きくなることも判った.これらの磁気比熱は基底状態の不安定化による幅の広がりの効果でほぼ説明できそうである.実際x=0.55の磁気比熱を簡単なモデルで解析してみると,基底状態の幅が約23Kであり,これは中性子非弾性散乱実験で観測された準弾性散乱の幅と同程度であるので,対応したものであると考えられる.x=0.75ではまだ結晶場分裂らしき構造があるらしく,この簡単なモデルでは実験結果の再現はできず,幅の広がった状態と広がっていない状態とを矛盾なく記述するようなモデルを構築しなければならない. 今年度の実験結果から,全体の濃度領域で結晶場分裂がどのように変化していくのか,ほぼ全貌が明らかになってきており,来年度より詳細な研究につなげていく上で,十分な基礎データをとることができた.
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