本研究はBi2212などの層状性の強い超伝導体において層方向に磁場を印可した際に生じるジョセフソン磁束が広い温度範囲で規則的に配列することを利用して、試料中を伝搬するジョセフソンプラズマ波の波数をコントロールし、高温超伝導体の誘電率を波数、周波数の関数として求めることを目標としている。本年度はジョセフソンプラズマの波数を決定するジョセフソン磁束格子の安定性について研究を行った。まず、試料内の磁束がab面内に完全に閉じこめられ、磁束密度がab面内方向の成分だけを持つ状態(ロックイン状態)が観測される角度範囲を試料の大きさの関数として測定した。試料の磁場方向の奧行きが100ミクロンの時、ロックイン状態で期待されるジョセフソン磁束フロー抵抗はab面から±0.1°の範囲で観測されたのに対し、奥行きがおよそ1/10の試料では±1°の範囲で磁束フローが確認された。さらに大きさを小さくしていくとさらにロックイン状態の範囲が拡大し、最小である奥行き5ミクロン試料ではおよそ±2°の範囲でロックイン状態が実現することが確認された。ロックイン状態よりc軸方向に傾けた場合、c軸方向のパンケーキ磁束が生じて交叉磁束状態になると予想されるので、磁束フロー抵抗が急激に変化する角度では、外部磁場万向がab面と有限の角度を持つときに費やす磁気異方性エネルギーが、パンケーキ磁束ひとつを作り出すエネルギーに等しくなっていると解釈できる。この実験結果を詳細に解析することにより、ジョセフソン磁束およびパンケーキ磁束の相互作用と安定性に関する知見が得られる。さらに、微小試料において比較的広い角度範囲においてロックインが実現することは固有ジョセフソン接合におけるジョセフソン磁束フローデバイスの実現にひとつの方向を与えると思われる。
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