超低温走査トンネル顕微鏡(ULT-STM)で本格的な実験を行う前に、予備実験としてより小型で簡便な低温STM装置により、T=4.3Kでスピン三重項超伝導体Sr_2RuO_4のSTMおよびトンネル分光(STM/TS)測定を行った。1.5-K相と3-K相試料(超伝導転移温度Tc=1.5K、3K)のいずれにおいてもトンネル微分コンダクタンスに半導体的な大きなギャップ(Δ=20-40mV)が開くスペクトルと、ギャップのない金属的なスペクトルが観測された。この装置は原子分解能がないため、スペクトルの定量的な解釈はできていないが、試料を低温劈開することでSTM/TS測定が十分可能な平坦かつ清浄な試料表面が準備できることや、劈開面が恐らくSrO面であることが分かった。 次に、Sr_2RuO_4の超伝導ギャップをTc以下十分低温で本格的に観測するため、我々が最近開発したULT-STMの性能テストを行った。その結果、1)振動の渦電流ダンピングが効く高磁場中(B=6T)でしか原子分解能が得られない、2)高温部からの輻射熱によって試料の最低温度が200mKに止まる、3)トンネル分光測定で十分なエネルギー分解能が得られない、という三つの問題点が明らかになった。そこで、装置の徹底した防振および熱絶縁機構の改良を行ったところ、1)零磁場を含む全ての磁場中で原子分解能が得られるようになり(試料:NbSe_2、HOPG)、2)試料を30mKまで冷却できるようになった。3)の問題については、第1種および第2種超伝導体のPbとNbSe_2を標準試料として評価しているが、未だ十分なエネルギー分解能が得られていない。現在、探針先端を電子ビーム加熱によって清浄化し、金試料に対する電界放出法で先鋭化することを試みている。この問題が解決し次第、磁場中を含むSr_2RuO_4のSTM/TS本実験を開始する予定である。
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