超低温走査トンネル顕微鏡(ULT-STM)を用い、p波スピン3重項のクーパー対をもつと考えられるSr_2RuO_4(超伝導転移温度=1.5K)の走査トンネル顕微/分光(STM/STS)測定を行った。Sr_2RuO_4は単純な層状物質ではなく、低温劈開によってSTM観測に足る良質の清浄表面を得ることはそれほど容易なことではないが、我々は適切な低温劈開の条件出しを行った結果、STM観測で非常に明瞭な原子像を得ることに成功した。またSTS測定から、Sr_2RuO_4表面上に約±5meVの常伝導ギャップが存在することが明らかになった。このギャップの由来は現在まだ判明していないが、絶縁相であるSrO表面固有の性質である可能性が高い。この常伝導ギャップ内には明らかな超伝導ギャップは観測されなかったが、これは超伝導性を担う擬2次元伝導面のRuO_2面が劈開によって得られにくいためと考えられる。しかし、探針-試料間のトンネル条件によっては常伝導ギャップ内にバイアス電圧ゼロでトンネル伝導率が極大をもつゼロバイアスピーク(ZBP)が観測された。ZBPは超伝導ギャップが異方性をもつ(非s波)場合にのみクーパー対の位相の干渉効果で現れると理論的に予測されており、Sr_2RuO_4が異方的超伝導体であることを強く示唆する結果が得られたといえる。また、ルテニウム過多の結晶(3-K相)では超伝導転移温度が3Kまで上昇することが知られているが、この結晶で表面上に転位と思われる線状欠陥を観測した。さらにこの線状欠陥はバイアス電圧によってSTM像の明暗が変化することが分かった。おそらく転位に伴い下層原子列の電子状態が周囲に比べて変化しているためと考えられる。これが3-K相固有の性質かどうか現在研究を遂行中である。転移温度上昇の機構を原子スケールから解明する手がかりを与える可能性がある。
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