まずはじめに、高磁場中でのプロトンやフッ素核のNMRができるよう新たなNMR用プローブを作成し、これと購入した高周波用スペクトロメータとを用いて信号を観測することができた。 また、2次元かごめ格子反強磁性体であるm-MPYNN・BF_4のプロトンNMRを液体ヘリウム3を用いた約0.4Kまでの超低温域まで、いくつかの磁場において詳細な緩和率(1/T_1)測定を行い、ちょうどギャップのつぶれる磁場の値を特定した。それよりも高磁場側ではべき的振る舞い(1/T_1〜T^<-α>)が観測され、2次元系におけるギャップレス状態のスピンダイナミクスについて重要な知見を得つつある。 さらに、磁化過程に現れるプラトーも一種のギャップ状態と考えられることから、ごく最近発見されたS=1/2擬2次元反強磁性体Cs_2CuBr_4の1/3磁化プラトーに着目し、プラトー領域(14〜15テスラ付近)前後における^<133>Cs核の核磁気共鳴実験に着手した。相互作用のエネルギー程度の温度域と相転移温度が比較的接近しているためにギャップレス状態における緩和率のべき的振る舞いを相転移に伴うcritical slowing downと区別することができなかったが、秩序状態において、不整合スピン構造を反映してスペクトルが粉末パターンを示し、プラトー領域ではそのパターンが劇的に消失するという大変顕著な結果が得られた。 なお、本研究の主たる対象としていたF_5PNNは、試料の再現性と保存性に問題があることがわかり、現在までの所、サンプル提供のめどがたたない状態である。
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