研究概要 |
陽イオンラジカル側に伝導性を、陰イオン側に磁性を担わせたハイブリッド型電荷移動錯体の開発および新規物性探索を行った。具体的には、有機ドナー分子にTTF誘導体であるBEDO-TTFを、また無機陰イオン分子に遷移金属錯体として2種類の遷移金属[M^<II>,M'^<II>]を含むオギザレート錯体MM'(ox)_3を用いて有機・無機複合錯体の作成を行った。2価の金属としては、Fe, Mn, Niなどを用い、3価の金属としてはCrを用いた。これまでに、金属と強磁性が共存する錯体として磁性金属(BEDO-TTF)_3FeCr(ox)_3・3.5H_2O(強磁性転移温度Tc=11K)を得た。この錯体の単結晶を得るために、電気分解法などを試みたが、残念ながら現時点では単結晶は得られていない。また、遷移金属として、M^<II>=Mn, Niを用いた錯体でも強磁性的振る舞いを確認した。現在、より詳細な物性や組成についての評価を行っている。 本研究では、化学的に有機・無機複合体の開発を行うとともに、低温、高磁場、圧力(静水圧、一軸性ひずみ)などによって得られた錯体の電子状態を物理的にコントロールする事も重要なテーマとして考えている。これは、有機導体の柔らかさを利用して、外部からの圧力によってπ電子系の電子状態を物理的にコントロールしようという試みである。この目的には従来の静水圧にくわえて、特定の一方向にのみひずみを加える事のできる一軸性ひずみの方法が非常に有効である。そこで、まずπ電子系の電子状態を一軸性ひずみによってコントロールする方法を確立する事が重要であると考え、有機超伝導体およびモット絶縁体を対象として、単結晶試料に一軸性ひずみを印加し、物性制御を行った。それにより、2次元有機超伝導体κ-(BEDT-TTF)_2Cu(NCS)_2の超伝導転移温度を上昇させる事に成功した。また、モット絶縁体κ-(BEDT-TTF)_2Cu_2(CN)_3に伝導面内方向へ一軸性ひずみを加える事によって超伝導を誘起し、その転移温度を静水圧下の約2倍にまで高める事が出来た。
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