今年度は以下の研究成果が得られた。 1.スピンアイス化合物の磁場下における液体-気体相転移 巨視的な縮退状態を有するスピンアイス状態に[111]方向の磁場を印可すると、部分的に縮退が解けたカゴメアイスが出現することを昨年度に明らかにした.我々は更にカゴメアイスの研究を進め、カゴメアイスにおける巨視的縮退が解ける際に、約04K以下で液体-気体型の相転移を示すことを発見した.局在スピン系における有限磁場下での液体-気体型の相転移は今回が初めてのケースである. 2.スピンアイス化合物の極低温下における動的磁気挙動 スピンアイス化合物Dy_2Ti_2O_7とDy_2Sn_2O_7の極低温域での交流磁化率測定によって動的磁気挙動について調べた.スピン相関の発達により磁化の緩和時間は増大するが、その温度依存性が熱活性型よりも急速に緩和時間が増大することがわかった.また、緩和のクロスオーバー領域におけるほぼ一定の緩和時間が各スピンアイス化合物に強く依存している事も判明した.これらは磁気異方性や励起状態に加え、スピン相関も関係する事が示唆される. 3.フラストレートしたパイロクロア酸化物Pr_2Sn_2O_7の極低温磁性 これまでにパイロクロア酸化物Pr_2Sn_2O_7が約0.3Kに交流磁化率に異常を示すことを見いだしている.その異常の起源について研究を行った.交流磁化率における異常は測定周波数に強く依存する事が明らかとなった.磁化の緩和時間はおおよそ熱活性型の温度依存性に従い増大していく.このため、01K以下で通常のDC測定のタイムスケールを超え、磁気モーメントが凍結している事が判った.飽和磁化は有効磁気モーメントの半分程度であり、強い1軸磁気異方性を有していることも明かとなった.これらの結果はPr_2Sn_2O_7が新規スピンアイス化合物である可能性が高い事を示唆している.
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