昨年度作成した半径1μm、線幅60nmのNiFeナノリングの極低温度ホール効果測定を行なったところ、ホール抵抗のゼロ磁場近傍の傾きが100mK以下で増大することを見出した。これは、リングのトポロジカルな磁気構造が誘起する量子断熱位相に起因するホール効果によるものと考えられる。 NiFeナノリングについて、磁気力顕微鏡観察、電気抵抗ノイズ測定を行なったところ、飽和磁場近傍で巨大な電気抵抗ノイズを発見した。このノイズの周波数依存性を詳しく調べた結果、飽和磁場近傍で顕著な臨界減速が見いだされた。モデル計算との比較により、このノイズはリングの磁気カイラル対象性の破れを反映した微小磁気構造のゆらぎの臨界現象であることがわかった。このデータを解析することで、飽和磁場近傍でリングの磁気カイラル自由度(磁気回旋方向が右回りか左回りか)の感受率が発散していることを明らかにした。さらに、この感受率の発散と外部からの電場パルスを利用した渦磁場印加を併用することで、磁気カイラル自由度の制御に成功した。 以上で、本研究の目的であった不均一磁気構造の制御とその量子伝導現象(AB位相変調とホール効果)への影響の観測を達成することができた。特に前者については、ナノ磁性体リングの磁気カイラル状態の容易かつ確実な制御方法が本研究によって始めて示され、今後量子磁気伝導測定への応用が期待できる。
|