研究概要 |
本研究では、格子歪みを伴わない反強四極子(AFQ)秩序を示す典型的な物質であるCeB_6に、共鳴X線散乱(RXS)手法を適用することにより、秩序した4f電子軌道の波動関数の対称性を定量的に決定することを目的としている。このような波動関数の決定は、最外殻電子のみの効果であるため実験的に決定することは難しくこれまで取り扱われてはこなかった。一方で、この最外殻電子の波動関数の対称性が物性に対し重要な役割を担っていることが、理論的に研究されてきた。特に本研究対象であるCeB_6では、四極子秩序状態が印加する磁場の方向により基底状態が多様に変化することが理論的に指摘されているが実験的な証拠はこれまでない。そこで、理論上の議論に留まってきた4f電子の波動関数を、RXSにより定量的に決定するため以下に示す手法を提案した。 これまでの原子散乱因子テンソルの定量化手法では、軌道秩序のもつ超格子反射強度のアジマス角(散乱ベクトル周りの回転の自由度)依存性の測定により、各サイトの原子散乱テンソルを推察していた。例えば、単位胞内に2サイトあるCeB_6では、超格子散乱の構造因子が、原子散乱テンソルの2サイト間の差分(f_1-f_2)の形を取る。したがって、テンソルの差分が実験と合うようにモデル計算との比較から各サイトの原子散乱テンソルを類推していたにすぎない。そこで今回、超格子反射,蛍光X線散乱・基本反射強度のアジマス角依存性を用いた原子散乱因子テンソルの定量化手法を提案した。ここで、単結晶による蛍光X線散乱強度の偏光依存性は、2サイトあるCeイオンの原子散乱因子の平均であり、基本反射強度は、2サイトあるCeイオンの原子散乱因子テンソルの和(f_1+f_2)とテンソルになっていない通常の構造因子(f_0)の和の2乗(|f_1+f_2|^2)であり、共にf_1+f_2の情報を持っている。したがって、超格子反射・蛍光X線散乱・基本反射強度を相補的に用いることにより、原子散乱因子テンソルf_1,f_2を厳密に決牢することが可能となる。 昨年度すでに、テンソルの定量化に必須であるアジマス角依存性の測定が可能でかつ、CeB_6のAFQ秩序転移温度(3.2K)以下の温度に到達可能であるクライオスタットを設計した。さらに同クライオスタット内で試料に磁場を印加するため、強力な永久磁石であるネオマックスを利用した磁場印加手法を開発した。 本年度は、最近SPring-8において立ち上げられたCeのL吸収端のような低エネルギーの強力なX線が使用可能であるBL22XUにおいて、これらの装置を利用した実験を目指した。しかしながらビームライン、回折計の立ち上げが遅れたために十分な実験時間が割り当ててもらえなかった。そのため、本年度は冷凍機と永久磁石による磁場印加システムの動作確認を行うとともに、CeB_6の予備実験を行った。その結果、テンソルの定量的な決定が可能であることがわかり、来年度再度実験を行う予定になっている。
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