初年度では、熱平衡にある少数自由度系の熱的性質を調べた。理論的考察の初期おいては、その最も典型的、かつ単純な系を考察することが問題の存在を確かめる意味で有効的である。そこで、希薄気体が中に入ったピストンの状態方程式を解析した。熱力学極限に於いては、当然通常の熱力学状態方程式を以てこの系を記述出来るが、系内の粒子数を減少させていくと、次第に"圧力"という物理量の意味が不明になり、また実験的にそれを測定する方法を明確に定義しなければならなくなる。圧力は粗視化された概念であったが、一分子の熱的性質がその基礎となるべきマクスウェルデーモンの研究において、この事情は十分意識されていなかった。 具体的系として、一分子気体のピストン系に力学的記述を行った。すなわち、熱粒子とピストンから構成される系に対してハミルトニアンを書き下し、力学的時間発展を記述した。ピストンに一定力の重りを作用させることで"圧力"に代え、記述を力学的に閉じさせた。系が熱平衡にあることは、系の一端に熱壁境界条件を設定することで記述される。Pressure ensembleの研究により熱壁境界条件の導入が正しい熱平衡分布、従って状態方程式を導くことが示されている。数値シミュレーションにより、以下のことを明らかとした。 ・Maxwell速度分布、位相空間上の定常解の時間反転対称性の成立.....数値シミュレーションの妥当性 ・一分子状態でのマクロ状態方程式の破れ ・マクロ状態方程式の破れはN→∞で回復される.....モデルの妥当性(熱力学極限)
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