第一原理電子状態計算の手法を用いて、有限の長さを持つ炭素ナノチューブの電子状態を解明した。その結果、有限長のナノチューブは、その直径・長さに依存して、種々の磁気的秩序が発現する事が明らかになった。特に、チューブの直径が比較的細い場合、チューブ端に局在した状態に起因する、強磁性状態が出現し、当該物質を構成単位として結晶を構築すれば、炭素原子のみからなる磁性体となり得る事を予言した。さらに、チューブ内に内包された1次元C70チェーンの電子状態を計算し、その電子構造がフラーレン分子の配向に大きく依存する事を示した。この系では、その分子配向の違いにより、強磁性状態/金属状態の切り替えが可能である事を予言した。他方、今日の半導体テクノロジーの分野で広く使われている、水素終端シリコンの表面において、表面を終端している炭素原子をナノメートルサィズで除去し、ダングリングボンドからなる、ナノネットワークを構築すると、ある種のネットワーク構造の下で、シリコン表面が磁石となる事を明らかにした。また、その磁性出現に必要な最小の単位の探索を行い、その大きさが差渡し1nm程度の三角形であることを明らかにした。この結果は、今日の半導体産業で使われている、ナノ微細加工技術を用いる事により、非常に高密度な記憶媒体の設計が可能である事を示し、今後の半導体デバイスの更なる微細化、高集積化への指針を与えた物である。
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