研究概要 |
数理生物学を中心とする様々な分野で研究されている生態系モデル(レプリケーター方程式系)の数理的研究を行った。特に、関係している種数が多く、種間相互作用が複雑で多様な系が進化する条件を調べた。これは、近年理論的な解析が進んでいる「同所的種分化」の問題にも関係する。また、1970年代に始まるこれまでの数理研究においては、「大規模で複雑な種間相互作用を持つ生態系モデルは安定に存続できない」という理論的な結果が示されてきており、熱帯雨林や珊瑚礁などに普遍的に観察される大規模で複雑な生態系との矛盾が問題となっている。 今年度は、『絶滅と分化を起こす生態系モデルに創発する複雑で安定なネットワーク』をTheoretical Population Biology(理論群集生物学),63(2003)131-146に発表した。当該論文において、絶滅、侵入および突然変異を取り入れ拡張したレプリケーター方程式を、種多様性の動態を表す最も簡単なモデルとして提案した。導入として、1970年代のGardner-Ashby、Robert Mayらの先駆的な理論研究から始まった大自由度理論生態学の歴史を概説した。新しいモデルは、従来調べられてきたレプリケーター方程式系やそれと等価なロトカ-ボルテラ方程式系と全く異なる振舞いを示す。数値シミュレーションにより、系のいくつかの特徴が明らかになった。 付録で、レプリケーター方程式とロトカ-ボルテラ方程式の関係について概説し、大自由度進化モデル研究のプラットフォームとしての新しいモデルの特長について議論した。従来の進化モデル研究においては、複雑で巨大な生態学的ネットワークを構成することができなかったが、本研究において初めて任意の規模の安定な系を構成することに成功した。
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